利益率35%のサロンが
生き残る条件
2026-05 / 実践レポート
自分のサロンの利益率を、はじめてきちんと計算してみた月があった。
売上から材料費、家賃、光熱費、自分の生活費まで引いて、最後に残った額を売上で割る。出てきたのは35%という数字だった。
35%。多いのか、少ないのか。正直、ぴんと来なかった。
先に結論を書いておく。利益率が35%かどうか、その数字単体では、生き残れるかは決まらない。 決まるのは、固定費・客単価・客数という3つの条件が揃っているかどうかだ。この記事では、その3つを順番に見ていく。
そもそも、その「利益率」は何の数字か
利益率という言葉は便利だが、人によって指しているものが違う。何を引いたあとの数字なのかで、まったく別の話になる。
美容室でよく出てくるのが限界利益率だ。これは「(売上 − 材料費) ÷ 売上」で出す。 カラー専門店のように材料費の比率が低い店なら、85〜92%くらいの高い数字になる。
この記事で「利益率35%」と言うときは、限界利益率のことではない。 売上から材料費・家賃・人件費・自分の取り分まで、出ていくものをひと通り引いたあとに最後に残る率のことだ。 手元の余裕として残るお金の割合、と考えるとわかりやすい。
ひとつ補足しておく。ここでの35%は、税務上の営業利益率とは違う。 個人事業なら自分の生活費は会計上の経費ではないが、この記事ではあえてそれも差し引いている。 手元にどれだけ余裕が残るかをつかむための、管理用の見方だと思ってほしい。
同じ「35%」でも、限界利益率としての35%ならかなり低い数字、最後に残る利益率としての35%はまったく別物になる。 どの段階の数字を見ているのか、まずここを分けて考える。限界利益率や損益分岐点の出し方は別記事にまとめてある。
利益率35%は、高いのか低いのか
では、最後に残る利益率としての35%は、高いのか低いのか。
答えは「何を費用に含めたかによる」だ。とくに大きいのが、自分の取り分の扱いになる。
自分の生活費や役員報酬を費用としてきちんと引いたあとで35%が残っているなら、小さなサロンとしては余裕がある方だといえる。 逆に、自分の取り分をまだ引いていない状態での35%なら、そこから生活費が出ていくので、見え方は変わる。
美容室全体でみると、最後に残る利益率は数%から15%程度と言われることが多い。 これは公開されている経営指標や会計系の記事で見かける目安で、店の規模や雇用形態、オーナー報酬の扱いによって大きく変わる。 個人サロンはとくに、自分の人件費をどう数えるかで数字が動くので、他店の平均と単純に比べてもあまり意味がない。
それよりも見たいのは、「いま35%」よりも「来年も35%を保てる形になっているか」のほうだ。 利益率は、結果として出てくる数字でしかない。その結果を作っているのは、店の構造のほうだ。
生き残るサロンに共通する3つの条件
長く続いている小さなサロンを数字で見ていくと、利益率の高低そのものより、 次の3つが揃っていることのほうが共通している。
条件1:固定費が売上の50%以下に収まっている
1つ目は、固定費が重すぎないこと。
固定費は、客が来ても来なくても毎月出ていくお金だ。家賃、人件費、自分の生活費、通信費、保険料あたりを合計し、 それが売上の何%を占めているかを見る。
目安として、固定費の合計が売上の50%を超えてくると、予約が埋まった月でも手元に残りにくくなる。 働いている実感のわりにお金が残らない、という感覚は、たいていここから来ている。
固定費率が高いと感じたら、まずは金額の大きい順に並べてみる。たいていは家賃か人件費のどちらかだ。
条件2:客単価を無理に下げていない
2つ目は、客単価だ。
集客が苦しくなると、つい単価を下げて間口を広げたくなる。 けれど、下げた単価を客数で取り返すのは、数字で見るとかなり苦しい。
たとえば単価を1割下げると、同じ売上を保つには客数を1割以上増やさないといけない。 ひとりで回す店では、その客数を足す余地がそもそも少ない。1日に対応できる時間は有限だからだ。
続いているサロンは、単価を下げる方向の競争に乗らない。 代わりに、施術の質と、その内容をきちんと言葉で説明することにエネルギーを使っている。 単価は、下げないために整えるものだ。
条件3:月間客数の振れ幅が小さい
3つ目は、月ごとの客数が大きく上下しないこと。
客数が毎月ジェットコースターのように動く店は、いい月の記憶で計画を立ててしまい、 悪い月に焦って値引きを打つ——という流れに入りやすい。
客数が安定する一番の土台はリピートだ。新規ばかりを追いかけると、客数は読みにくいままになる。 来てくれた人がもう一度来る流れ——次回予約、ちょっとした連絡、記録——がある店は、客数の振れ幅が自然と小さくなる。 新規3割・既存7割くらいの構成が、ひとつの目安になる。
12月や2月のような季節の谷も、あらかじめ織り込んでおけば慌てずにすむ。 客数が変わると利益がどう動くかは、サロンPLツールで試せる。
数字で見る、3つを満たしたサロン
具体的な数字で見たほうが腹に落ちる。3つが揃った状態を、ひとつの例で動かしてみる。
月商80万円、材料費9万円(材料費率は約11%)、固定費の合計が35万円。 固定費には家賃・光熱費・通信費に加えて、自分の生活費も含めている。
- 月商 80万円
- 材料費 9万円(材料費率 約11%)
- 固定費合計 35万円(固定費率 約44%)
- 手元に残る 36万円(売上に対して 45%)
固定費が売上の50%以下に収まり、残った36万円が来期の備えや投資に回せる原資になる。
同じ売上でも、固定費が膨らむと景色は変わる。固定費が50万円になった場合と並べてみる。
| 項目 | 固定費が軽いケース | 固定費が重いケース |
|---|---|---|
| 月商 | 80万円 | 80万円 |
| 材料費 | 9万円 | 9万円 |
| 固定費合計 | 35万円 | 50万円 |
| 手元に残る | 36万円 | 21万円 |
| 売上に対する率 | 45% | 26% |
どちらも黒字ではある。けれど数字の余裕はずいぶん違う。利益率を動かしているのは、特別な技でも値上げでもなく、固定費の重さだとわかる。
自分のサロンが3つを満たしているか確かめる
最後に、自分の店で確かめる手順を書いておく。
まず、月の数字を3か月分書き出す。1か月だけだと、その月がたまたまだったのか判断できない。 3か月あれば、振れ幅も見えてくる。
次に、限界利益率と損益分岐点を出す。出し方は別記事にまとめてあるので、手順はそちらを見てほしい。
そのうえで、3つの条件を確かめる。固定費は売上の50%以下か。客単価を無理に下げていないか。 客数の月ごとの振れ幅は大きすぎないか。
1つでも欠けているなら、そこが最初に手をつける場所だ。3つ同時に直す必要はない。
そして、ここがいちばん大事なのだが——3か月分の数字を書き出すこと自体が、もう改善の第一歩になっている。
まとめ:利益率は数字より「構造」で決まる
- 利益率は「何を引いたあとの数字か」で意味が変わる。35%という数字単体では、高いとも低いとも言い切れない
- 続いている小さなサロンには、固定費が売上の50%以下 / 客単価を無理に下げていない / 月間客数の振れ幅が小さい、の3つが揃っている
- まずは月の数字を3か月分書き出すところから。それが現在地を知る入口になる
利益率という結果の数字を眺めるより、その3つの条件を1つずつ整えるほうが、たぶん近道だ。 数字を眺める習慣がつくだけでも、見える景色はだいぶ変わる。